”間(はざま)を狙い 陶芸に向き合う”

文化芸術産業観光

エリア別能美

10サンジ

若狹わかさ 祐介ゆうすけ

出身:広島市
活動拠点:江田島市
趣味:植物
好きな言葉:行雲流水
好きな食べ物:お好み焼き、パン
江田島のここが好き:島時間
今、気になる人:龍胆寺 雄さん

 

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  • 陶芸工房主宰
  • Date.Workshop studio講師
  • 美術画廊やギャラリーでの個展

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  • 江田島市内に薪窯(まきがま)を造り、薪窯での作品づくり

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  • 剪定木を燃やし、灰釉にします

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  • ちがう分野の表現者とつながりたい

 

西村記者の取材後記
(取材日:2017年12月4日(月))

 

江田島ならではの色を操る

10サンジさんの器との出会いは、いつだったか。イベントなどで見るにつけ、ステキな器たちだなぁと思っていた。じっくり若狹さんとお話ししたのは、2014年5月、海友舎でのイベントに参加したとき。それまで見たこともなかった青い色に惹かれ、鉢にもなるような深皿を連れて帰った。江田島の海の色をイメージしたと聞き、当時から江田島で暮らしたいと未来を描いていた私は、江田島の海をわが家に置いておきたくなったのだ。銅で着色した「藍香釉」というシリーズは、今も若狹さんを代表する色で、ふと高台から見渡した海に、きょうの海の色はあの器の色だな、と感じることがある。
青に象徴されるように、若狹さんが作る色は深みがあり、重厚感がある。代表されるのは白砂化粧、枯金釉、黒鈍釉など。器を手に取ると、ふっと食卓が浮かんでくる。盛り付ける料理を想像し、楽しくなる。最近では、江田島市ならではの器を作りたいと、江田島産のオリーブ、いちじく、みかんなどの木から作る灰を釉薬にし、器に色を注ぎ込む。他にもならの木、わら、コーヒー豆などを使う。オリーブはうっすら緑色に色づき、民芸風の色が出るので、気に入っているそうだ。オリーブに携わっている私は何だかオリーブを褒められているようで、うれしくなった。それはさておき、家族も色を纏っている。日本の四季には色があるのをご存じだろうか。青春、朱夏、白秋、玄冬。春夏秋冬にはそれぞれ青、赤、白、黒の色がある。若狹さんは陶芸家の奥様、蓮尾寧子さん、長女瑚青(こはる)ちゃん、長男玄栞(とうり)くんの4人家族。 勘のいい人ならお気づきだろう。春生まれの瑚青ちゃん、冬生まれの玄栞くん、二人とも季節を表す色、春は青、冬は黒(玄)が名前に付いている。寧子さんは、工房でともに陶芸にいそしむ仕事上のパートナーでもある。お互いの仕事の様子が分かるため、理解しあえるという。「妻が忙しい時は主夫にもなれるのがこの仕事のいいところ」と若狹さんは目を細める。「お互い、作品に対するアドバイスなどはあまり言わないようにしていますが、『めっちゃいいじゃろー』と自慢してきます」と寧子さんが笑う。ふたりが手掛ける作品のバランスは、個人的にもとても好きで、異なる作風なのに、一緒に食卓に並んでも自然とマッチする。「粘土を別のものを使っても、作り方は同じ京都式ですし、一緒の空間で、隣に並んで作っていることで、2人の器が一緒にあっても違和感がないのかも」と若狹さん。インタビュー中にいた瑚青ちゃんに、お父さんの好きなところを聞くと、「作品を作っているところが好き、かっこいい」と、無邪気に答えてくれた。お母さんの好きなところは、器の成形で削っているところ、お料理を作っているところだそうだ。工房でもよく遊んでいるという瑚青ちゃん。自然と陶芸の英才教育が始まっているのかもしれない。

 

若狹さんの「藍香釉」シリーズの作品(右)と寧子さんの作品(左)。「同年代や若い人にも器を使ってもらい、そのひとときに何かを感じてもらえたらうれしい」と若狹さん。
10サンジの工房。子どもたちも自由に出入りする。

 

かけがえのない祖父の存在

若狹さんが陶芸家を志すきっかけの一つに祖父の存在がある。現在、仕事場の工房とギャラリー10サンジ、生活空間、暮らしているのは祖父の家。年末年始やお盆に帰省するところだったそうだ。趣味(といってもかなりの高レベル)で陶芸をしていた祖父が、紙粘土いじりなどが好きな若狹さんの才能を伸ばしてくれたという。大好きだった祖父が夢中でやっている陶芸をはじめてみようと思い、18歳から22歳までの4年間、週末“この場所”に通って陶芸に没頭した。そして、県外で修行した後、独立をするのに選んだのが“この場所”。はじめは、江田島という地に迷いもあった。陶芸を生業にしていくためには、陶産地に行くのが一番。ただ、今のご時世、ネット販売もできるし、情報過多な世の中で周りに影響されることなく、自分の思うように密に陶芸に打ち込めると思い、江田島を選んだ。日々進歩する情報は、足を運ぶことで得られる。広島市などに出やすいという点では地の利もある。人の縁もあり、土地の力、血の力を感じることも多い。17年前に他界した祖父が作った器を地域の人が大切に使っているのを聞くこともあり、祖父の存在を感じ、うれしくなるという。

工房には道具などが所狭しと並ぶ。
学びの館(江田島町)で2月に個展の予定。東京での展示会も決まり、どんな風に見てもらえるか楽しみだという。
「作品作りは没頭し、無になれることが楽しい。」と若狹さん。無我夢中の境地。

「間(はざま)」を狙って

若狹さんはお皿を中心とした「器」と花器やオブジェなど大きな「作品」を作り、個展などを開いている。「器」は手に取ってもらいやすく、「作品」は感じてもらうものだという。若狹さんは、この両者の「間(はざま)」、つまり両方のバランスが取れたものを追求している。一般的に、器づくりとオブジェづくりは別々になりがちだが、その「はざま」にこだわる。たたずまい、使いやすさ、色付けなど…。例えば、釉薬。器では使われない釉薬をあえて器に使い、焼く温度や焼いた後の磨きなどで器としても使えるような工夫を施し、若狹さんならではのものを作っている。まさに「はざま」である。何でも吸収し、自由自在に動けるようなニュートラルな状態でありながら、芯の通ったストイックさ。陶芸に向き合う姿勢にも「はざま」が見えた。
「はざま」の追求ともう一つ、これから実現したいことは薪窯(まきがま)を構えることだ。今は電気窯とガス窯で焼いているが、薪をくべた火の力で焼きたいと夢を膨らませている。焼き物とは造形した土に熱のカロリーを注ぎ込み完成するもの。薪窯は自然の作用が一番出るのが魅力的だという。「薪の火にゆだねる面白さ。その時にしかできないものを狙いたい。ただ、コントロールできる一瞬もあり、そこがやった!と思う。」薪窯では、1200℃を維持するよう、4、5日かけて、つきっきりで焼き上げるという。優しいまなざしの奥には、陶芸に対する情熱が炎のようにメラメラと燃えている。何事も包み込むような深さや陶芸への情熱は、恐らく祖父譲りなのだろう。
10サンジ、若狹さんの作品を手に取った時に感じる陶芸家の姿―深く、大きく、あたたかい、そんな姿を想像する。まさに思った通りの陶芸家、若狹祐介さんによって生み出されていた。

 

ギャラリーには、間(はざま)を狙った作品が並ぶ。
展示会などで人と話すことも、自分を客観的に見つめなおす大切な機会ととらえている。

 

人物ストーリー

  • 広島市出身
  • 奈良芸術短期大学卒業、能登島ガラス工房修了
  • 文化功労者・今井政之氏に師事
  • 2010年、大柿町柿浦で独立
    祖父の家を改装し、工房併設ギャラリー「10サンジ」をオープン
  • 全国で個展・グループ展開催、公募展入選多数

 

連絡先

10サンジ
住所:広島県江田島市大柿町柿浦2074-1
TEL:0823-57-6020
HP:https://wks10sanji.wixsite.com/tougeijima

 

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